スピン

古典解析力学では、系が回転対称性をもつときにネーターの定理から導かれる保存量を角運動量と呼ぶのであった。

 

量子力学的粒子は固有角運動量を持つことが知られている。3次元空間での回転をつかさどるLie代数はsl2=su2=so3である。それぞれの軸に対する無限小回転の生成子をsx、sy、szとする。すると、系が回転対称性をもつということは系のハミルトニアンのそれらが可換であるということである。しかし、sx、sy、szは可換ではないのでそれらの同時固有ベクトルをとることはできない。よって、普通はszだけを対角化する。すると、s+=sx+isy,s-=sx-isyはszの固有値の上昇・下降作用素になる。これは普通の最高ウェイト理論と同じ話の展開になる。よって、系をsl2の既約表現に分解できる。最高ウェイトを系のスピンとよぶ。

 

スピン統計定理という重要な定理がある。これは系に対するある程度の仮定の下で、スピン整数・半整数それぞれの多粒子系がボゾン・フェルミオンとしてふるまうという主張である。

量子力学

量子力学では系の状態があるヒルベルト空間の元(状態ベクトル)であらわされ、物理量(観測量)はその上のエルミート作用素(より強く自己共役作用素であるべきだが一般には満たされない)によってあらわされる。状態ベクトルψが観測量Aの固有ベクトルになっているとき、ψにおける観測量の値はその固有値になる。状態ベクトル固有値でない場合には、「期待値∫ψ*Aψ」のみが定義可能であり、量子力学は確率的な予測しか与えない。

 

量子力学における基本方程式はShrodinger方程式というものである(dψ/dt=Hψ)。ここでHは「対応する古典系」のハミルトニアン作用素で置き換えたものである。しかし、ここでの対応する古典系というのはナイーブな意味でそのようなものが存在するとは限らないし、対応もカノニカルとは限らない。これはただの古典的な直観に即した解釈であり、量子力学古典力学とは異なるものだという認識が必要である。

 

量子力学の公理はしばしば作用素の代数のレベルで定式化しておくと便利である。すなわち、作用素代数の表現空間としてのヒルベルト空間はいったん隅においておいておくのである。すると、古典系からスタートして量子力学を得る「正準量子化」という手続きが定式化される。すなわち、古典解析力学系が一つ与えられたとき、それをPoisson形式で書く。対応する作用素代数を、Poisson括弧を交換子に取り換えて定義することで対応する量子力学を得る手続きを正準量子化という。

 

 

 

解析力学とシンプレクティック幾何、ミニマム。

久しぶりにLandau-Lifshitzを拾い読みしたので、ミニマムをまとめてみる。

 

まず、解析力学は座標qと速度pを変数にとるラグランジアンLを指定することから始まる。これを時間について積分したものについて、固定端条件の下で変分原理を施すとEuler-Lagrangeの運動方程式が得られる。これがラグランジュ形式の解析力学である。

 

一方で、座標qと運動量pを用いたハミルトン形式がある。ラグランジアンLから、H=pq_t-Lでハミルトニアンを定義することで、ハミルトン方程式が得られる。ハミルトン方程式の利点は、qとpの扱いが「対称的」になり、形式の対称性が大きくなることである。さらに、Poisson括弧を導入すると、物理量の時間発展はハミルトニアンとの括弧積で記述できる。

 

つまり、一般に力学系を与えるにはPoisson多様体の構造で十分である。しかし、qとpという座標を局所的にでもとるためには、Poisson構造がシンプレクティック構造から来ていないといけない。これが、「解析力学の相空間がシンプレクティック多様体で与えられる」の意味である。

 

シンプレクティック多様体が与えられたときにラグランジュ形式に戻るにはどうしたらいいのか?それにはラグランジュ部分多様体を与えなければならない。シンプレクティック多様体Mのラグランジュ部分多様体L(これはさきほどのLではない。)が与えられると、Weinsteinの定理からLの管状近傍はLの余接束の零切断の管状近傍とシンプレクティック同相になる。よって、座標q、pがえられ一般速度もここから得られる。

 

もう一つの解析力学の有名な形式として、Hamilton-Jacobi方程式がある。これは、作用積分Sのt微分がLであることをSのq微分が一般運動量と見えることを用いて、書き直したものに過ぎない。

 

LLには書いていないが、Gromov以前の古典シンプレクティック幾何の中でよい定理の一つは、Arnold-Liouvilleのトーラス束定理だろう。これは、完全可積分系の相空間がトーラス束の構造を持つことを示す。n個の独立な(Poisson可換な)第一運動積分があるとき、それをR^nへの写像だと思うとsubmersiveである。さらに、それのファイバーが連結滑コンパクトであれば、ファイバー上の可換なn個のHamilton流はファイバーにトーラスの構造を与える。これが証明の概略である。